これまでの半導体産業では、いわゆる”トップダウン(top down)”方式により、シリコンを主体として微細化を日進月歩の勢いで推進してきた。現在、微細化は極限領域に到達しつつあり、トップダウン方式では完全に同じものを歩留まり高く作製することは難しいのが現状で、ある程度素子間にばらつきがあることはやむを得ない。一方、”ボトムアップ(bottom up)”方式は、物質の最小単位である原子や、構造が定義されている分子からエレクトロニクスを構成するという概念であり、完全に同一なデバイスを作製しようとするものである。

これらトップダウンとボトムアップ方式を融合させることで、超微細なデバイスを多量かつ安価に作製できると期待されている。特に有機分子材料は、無機材料と比較すると、軽量性、可撓性・柔軟性、材料種の多様性の点で優れ、分子が自己組織化的に配列するという性質や、スピンコート法、印刷法などを用いた非常に簡単な成膜プロセスが可能であるという特徴をもっている。近年、テレビや携帯のディスプレイで身近になった有機ELを始めとする能動デバイスの実用化を契機として、有機分子エレクトロニクスは飛躍的な発展を遂げつつある。さらに、個々の分子は既に化学構造、分子軌道によって決まる機能単位であることから、分子の機能を自由にデザインし、その単一分子からなるデバイスを作製しようという分子エレクトロニクスヘの展開は究極的な超微細デバイス実現への挑戦として大きく期待されている。

しかしながら、個としての分子を直接取り扱う際には、単一分子への電気接続や分子レベルでの素子機能の動作確認など、技術的に克服すべき課題が多く残されている。本研究では、単一/少数分子系のエレクトロニクスの実現を最終的な目標として、分子機能の発現に必要不可欠なナノスケ一ルでの分子の操作、組織化、配向制御技術を確立するとともに、分子スケールの領域において現れる量子力学的効果を含む電子物性に関する研究を行う。特に、高分解能観察による対象分子の選択、探針による分子への直接的な入出力アクセスを可能にするSPMテクノロジーに関する研究を推進している。